山を支えるインフラ、山小屋泊のすすめ

Text: SU
キャンプ好きの僕らは、どこに行ったってテントを張ってキャンプをしたいのだ。
とは言え、山でキャンプとなるとテントを担いでいかないといけないし、寝るためにはマットや寝袋、食料など、泊まるための諸々が必要になる。
荷物が重くなると歩くのが大変になって、初心者にはなかなか難易度が高いんじゃないの?
ということで、このジャーナルではテント泊より比較的ハードルが低く、初心者でも山での宿泊を楽しむことができる手段として、「小屋泊」を紹介したい。

今回の山旅のパートナーは、僕(SU)が以前から親交のある、OWL MILS代表の白川氏。若いころから山歩きを楽しんでいる、経験豊富なアウトドア愛好家だ。
2年前に日帰りで唐松岳に登って以来、何度か泊まりで山へ行く計画を立てるも、悪天候により頓挫。2年越しにやっと実現した。
彼は以前から「テント泊でもいいですけど、できれば山小屋に泊まりたいです」と言い続けている。どういった意図でそこにこだわっているのか、についての話も聞きながら、2人で山を歩いてきた。

そしてこの山旅の舞台に選んだのは、北アルプス立山連峰の主要峰のひとつ薬師岳。
富山にある折立の登山口から入山し、初日は薬師岳の山頂直下にある「薬師岳山荘」を目指す。
2026年の9月は天候が悪い日が続いたが、この日に関してはベストコンディション。1時間半ほど樹林帯を歩くとひらけた稜線へ出て、そこから山頂が見える。大規模なカールが連なるどっしりとした品のある山容で、北アルプスの貴婦人と言われているとおり、遠目でも見応えがある。
「北陸には良い山が多いんです。」
福井在住の彼が誇らしげに言う。たしかに関東からだと北アルプスへアクセスするには少なくとも車で4時間は見ておかないといけないのに対して、彼の自宅から折立の登山口への所要時間は約1時間半。
ご近所へ行く気分で、日本屈指の山の出発地点へいとも簡単に行くことができる環境は羨ましい限りだ。

スタートから樹林帯と木道を経て、4時間弱で太郎兵衛平へ到着。僕は折立からアルプスへ入るのは初めて。距離や累積標高など数字上はそれほど大変そうに感じなかったが、実際に登ってみるとなかなか登り応えのある序盤だった。
太郎兵衛平は、この先にある雲の平や黒部五郎、立山方面など登山好きに人気の山域へとつづく、北アルプスの重要な拠点となっている。
ここから見える山々の姿を見渡すだけで、おのずと気分が高まってくる。

太郎兵衛平にある太郎平小屋。ここから先へ進むための最初の補給地点。もちろん宿泊もできる。
小屋の前には広々とした休憩スペースがあり、見晴らしと天気の良さも相まって気分は晴れ晴れ。

これまでに何度も薬師岳へ登ったことがある白川氏から聞いていた、黒部源流で採れる行者ニンニク入りの「太郎ラーメン」を食べる気満々で歩いてきたが、なんと行者ニンニクの時期が終わってしまったそうで、すでに完売。やむをえずカレーをいただくことにしたが、これはこれでもちろん美味しい。
しっかり食べて腹ごしらえ完了。休憩もしっかり取れたので、この日の目的地、薬師岳山荘へ向かうことにする。まだ登りは続くけど、ここからは見晴らしの良い稜線がメインのご褒美タイムだ。ガタが来はじめた身体の健康管理のことや、互いの子育てのことなど、他愛もない話をしながらゆっくりと歩いていく。

太郎平小屋を出発してほどなくすると登り返しになっており、太郎平キャンプ場を見下ろすことができる。
熊の出没により一時閉鎖を余儀なくされた時期もあったが、再開されて通常通り営業されていた。

熊の対策として、現在はキャンプ場の周囲に電気柵が張られていて、熊に食糧を荒らされないようにするための、食糧庫も併設されている。
人間の持ち物から食べ物を調達できることを学習してしまうとそれが習慣化されてしまうため、とにかくそうならないようにしっかりと食料を隔離することが重要。
山に限らず市街地でも近年は何かと熊の話題が尽きないが、不要なトラブルにならないよう、人間の側としても出会わない対策など正しい知識をつけて必要な備えをしていきたい。

太郎平キャンプ場を過ぎてグイグイと最後の急登を登っていくと、山頂手前付近で薬師岳山荘が見えてきた。
ここまでで時間にして、休憩を含めて約6時間半。しっかり歩いて、ほどよい疲労感と共に小屋へ到着。好天に恵まれ何の不安要素もない山歩きだったけど、なんだかんだで目的地の小屋へ着くと安心感から気分が落ち着く。
すぐそこに山頂は見えているが、楽しみは翌日にとっておくことにして、僕らは小屋へと吸い込まれていった。

今回は小屋のありがたみを最大限に味わうため、相部屋ではなく個室を利用してみることに。部屋の名前はいかにも山小屋らしく「槍」。
名前の通り、個室の窓から槍ヶ岳をはじめとした北アルプスの山々を眺めることができる、山小屋界のスイートルームを運よくゲット。

中に入ってみると8畳もある立派な和室。4〜5人ほどは入れる余裕があるが、今回は2人なので広々。雨風の影響が一切なく寒さとも無縁、テントを張る手間もなく横になれるなんて、この安心感と贅沢気分を味わえるところが小屋泊の魅力。
僕が3年ほど前に山小屋に泊まった時、夜間は猛吹雪の悪天候だったため、心の底から山小屋のありがたみを感じることができたなぁ〜、なんてことをふと思いだした。
前日の睡眠不足もあって若干疲れ気味だった白川氏は、部屋に入るなりマットを敷いてくつろぎモード全開。
テント、マット、寝袋に加え、防寒着や食料も含めると4〜5kgは重くなるため、それを持たずに歩けるということは、身体にかかる負担が大きく減り、体力の温存につながる。特に縦走などで長く歩く時は、小屋泊もうまく取り入れると、行程管理に余裕ができるだろう。

部屋でゴロゴロしながら雑談したり、外に出て景色を眺めたり、小屋の恩恵を最大限に満喫しているうちに夕食の時間。なんなら家で食べるより種類が多いのでは?ぐらいのたくさんのおかずが並んでいる。
単に寝食と安心感を提供してくれるだけでなく、人気の食事のメニューがあったり、手ぬぐいなどのグッズが充実していたり、小屋によって趣向が凝らされていたりするので、それを目当てに行き先を決めるのも面白そうだ。

夕食後は日没までまだ時間があったので、再び景色を眺めに外へ。目の前にはどこまでも続く雲海が広がっていた。
絶景を前に1人たそがれる白川氏。山の景色だって、良い時もあれば悪い時もある。こんななかなか出会えない景色を前にすれば、いつまでだって見ていたくなるのは当然だ。

僕はアウトドアで過ごす時はいつも、OWL MILSの中でもレンズの品質が高くフィット感に優れたレッドレーベルの「IZANAMI」を愛用しているが、今回の山行ではOWL MILSのブルーレーベルでも一番人気の「Sif」を試させてもらった。
そこまで激しい動きがないハイキングであれば、ブルーレーベルでも問題なく使用できた。レッドレーベルに比べて価格的に手に取りやすい点もポイントで、普段使いにも適したオールマイティなモデル。

翌朝、ご来光は山頂で、というのが登山のセオリーかもしれないが、山小屋の快適さにすっかり骨抜きにされた僕たちは、朝食をとってから遅めのスタート。朝食の開始は5時半から。のんびりと朝食を済ませ、6時ごろからすでに日が出始めているなか山頂へと歩き始めた。
出発してほどなく、振り返るとお世話になった薬師岳山荘と、遠くには前日に立ち寄った太郎平小屋も見える。そしてその先には、どこまでも歩いて行きたくなりそうな壮大な稜線が続いている。メインステージ手前でこれだけの景色なんだから、そりゃ多くの人が北アルプスに魅了されて繰り返し訪れたくなるわけだ。

薬師岳山荘が山頂まであとわずかのところにあるおかげで、出発して1時間もかからずに山頂へ到着。
日本で27番目の高さで、標高2,926m。遠目から見た山の姿も良かったが、山頂から見える景色も抜群に良い。

薬師岳から眺める北側の立山方面。五色ヶ原の先には雄山や剱岳まで見渡せるし、もちろん歩いて行くこともできる。

そして反対側を見渡すと、槍ヶ岳などこちらも北アルプスの錚々たる山々を眺めることができる。
目には見えないが、この山々の道中には、登山者の疲れを癒し、安全を確保してくれる、たくさんの山小屋が点在しているのだ。
「山小屋は、ただ泊まるための場所ではなくて、山を支える大切なインフラだと思っています。
登山道を整備したり、山を安全に楽しめる環境を守ったり。そういう役割を担ってくれている場所でもあります。だから僕は、できるだけ山小屋を利用したいと思っています。
山小屋を利用することが、その山のインフラや登山道を守ることにつながって、その積み重ねが結果として登山文化を守ることにもつながっていく。
山を楽しむだけじゃなく、楽しませてもらっている場所に少しでも還元していく。そんな感覚は持っていたいなと思います。」

山小屋に泊まることが、まさか結果的に山のインフラを支えることに繋がるなんて。思いもよらぬ学びがあった今回の山旅。
ただ荷物を軽くしてラクをしたいがための小屋泊、なんて意識が低いことを思っていたのはどうやら僕だけだったらしい。
Special Thanks
OWL MILS 白川雄太