まさかの欠航⁉︎ 粘り腰の屋久島旅

DAY1
「屋久島は雨が良い」
僕(ライターサクライ)が勝手に屋久島の師匠と尊敬している屋久島ガイドの言葉だ。
屋久島の年間降雨量は約4600mmで東京の倍以上。「月に35日雨が降る」と言われるほどなのだ。これまで6回訪れた屋久島。そのうち3回は雨だった。とはいえガッツリ雨予報で固められてしまうと、ちょっと強がりな感も出てしまう。
今回の3泊4日の屋久島旅に向かったのは、LOGの鈴木とライターサクライの2人。鈴木はここ2年ほどしょっちゅう山歩きをしていて、今回屋久島の宮之浦を登れば日本百名山40座目だという。
プランとしては、初日はバスで淀川登山口まで行き、淀川小屋でテント泊。翌日は九州最高峰である宮之浦岳を踏んで新高塚小屋泊。3日目に縄文杉やウィルソン株を経て、白谷雲水峡側に抜けるという、一般的な縦走ルートだ。

ところが、乗る予定だった鹿児島からの屋久島便が悪天候によりまさかの欠航。残念な気持ちはもちろん大きいけれど、旅っぽくなってきたな、という感覚もある。
どんな旅でも言えることだけど、すべてがスケジュール通りにいったら、ちょっと物足りないのだ。トラブルがあるから、それを解決したときのヨロコビもある。そのギャップを楽しむのも旅だと思っている。
船にするか次の便に振り替えるか迷った末、次の便で到着できれば当初の予定通りのルートを歩けるということで、飛行機をチョイス。ところが、離陸はしたんだけれど、屋久島寸前で上昇……。結局鹿児島空港に戻ることに。

じゃあプラン変更! やっぱり宮之浦は登らせてあげたい、ということで、翌日の高速船で屋久島に入り、レンタカーで淀川小屋へ。2日目に宮之浦岳から新高塚小屋。3日目に縄文杉だけ見て、ふたたび淀川登山口へ戻るピストン。
そのまま抜ければ良いじゃんと思うかもしれないけど、バスの時間の関係で淀川登山口に停めたレンタカーを回収するタイミングがないのだ。


というわけで、この日は鹿児島随一の繁華街である天文館ナイト。山も街も楽しむというのがLOG流。いつもは締めに街だけど今回は前夜祭なのだ。
現況をインスタにアップすると、友人たちから次々とおすすめの飲食店情報が届く。そうして訪れた、「おはし」という郷土料理の店が最高すぎた。名物のイワシ料理をはじめ、鳥刺しなど、心ゆくまで堪能。やはり、持つべきものは旅友なのだ。
DAY2
そして迎えた2日目。めっちゃ降ってます。鹿児島港から10:10発のロケット3という高速船に乗り込み、諦めない心で屋久島へと向かう。船内のモニターに映し出されるニュースでは、屋久島が記録的な大雨に見舞われていると報じている。
12:55。家を出てからすでに30時間以上。粘りに粘ってなんとか屋久島上陸はできたものの、どっしゃ降り……。天気予報を見てみると、2日後から天候が回復する見込みなので、ここで再びプラン変更!

明日は宮之浦を目指さずに、白谷雲水峡へ。その日の夕方に淀川小屋へと入り、明後日宮之浦岳をピストンすることに。縄文杉は残しちゃうけど、これはこれで、屋久島満喫の良いプランなのでは?
屋久島を訪れる観光客は年間24万人。ほとんどは縄文杉狙いだ。それを悪いとは言わないけれど、屋久島にはほかにもたくさんの魅力がある。強がり? そうかもしれない。けれど、これだけプラン変更できることが、それを証明していると思う。


この日はレンタカーを走らせ、モッチョム岳の眺望抜群の「やくしま果鈴」の名物、たんかんスムージーをいただきつつ、大川の滝へと向かう。
そう、雨が降ったら滝にかぎるのだ。大川の滝の駐車場の時点ですでにゴーゴーというモノスゴイ音が聞こえてくる。山に降った雨が一気に落ちてくるから、その迫力はとんでもない。何度も訪れている場所だけど、間違いなく過去イチ。大川の滝MAX状態だ。滝好きという鈴木も「人生で一番かも……」ともらす圧倒的水量。
屋久島は雨なら雨で、ご褒美もある。そういう島なのだ。
DAY3
天気もだいぶ落ち着いたので、いよいよ山のほうへ。とはいえ、まだ山の上には分厚い雲がいる。今から宮之浦岳に上がっても、おそらく上はガッスガス。というわけで、最初の予定で縦走のゴール地点だった白谷雲水峡へと向かう。

レンタカーを使えば、こういう風に登山口からピストンでさまざまな山歩きを楽しむことができる。白谷雲水峡以外だと、ヤクスギランドから太忠岳、千尋の滝からモッチョム岳などもオススメ。
屋久島は中央部に高い山がそびえている関係で、島の北側は雨でも南側が晴れていたりすることが多い。逆もまたしかり。だから、天候が良さそうなエリアを選んで柔軟にプラン変更するのが良い。

白谷雲水峡のコンディションは最高。ここは有名なジブリ映画のロケーションにもなったことがある場所で、苔むす森歩きを楽しむことができる。雨上がりの今日は苔が生き生きしているはずだ、という狙いがあった。

渡渉もありつつ、約30分歩くと巨大な屋久杉が出迎えてくれる。屋久杉というのは、樹齢1000年を超えた杉の総称で、この二代くぐり杉は、その名の通り幹の空洞をくぐることができる。必ずしも縄文杉に行かなくても、屋久島ではさまざまな屋久杉を見ることができるのだ。

個人的に好きなのが七本杉。屋久杉としては樹高が高いほうではないんだけど、その上部にはさまざまな他の植物たちが着床していて、まるで大家族のようなのだ。屋久杉は形も千差万別なので、こういう“自分の好きな屋久杉”を見つけてみるのもとっても楽しい。

進むごとにどんどん緑色が濃くなってくる。雨上がりの苔だ。狙い通りのベストコンディション。鈴木は苔から滴る水滴を上手くカメラに収めようと、超接写モード。
苔の上に杉の実生(種子から発芽したもの)がちょこんと乗っている。こんな小さな杉もいつか屋久杉になると思うと、樹の寿命の長さにちょっと圧倒される。
ここまでで引き返す人も多いけれど、実はこの先にコース最大の見どころがある。

急登を20分ほど登ると、突然景色が開ける。太鼓岩と呼ばれる場所で、屋久島の山々が見渡せる自然が作りだした展望台。残念ながら宮之浦岳は見えないけど、ピンポイントでここだけガスが抜けている。
これは、鈴木、持ってますね。

轟々と流れる川の渡渉をビビリながら乗り越え、登山口まで戻って来た。
白谷雲水峡を出たら、そのまままっすぐ淀川登山口へと向かう。ちょっと心配だった駐車場問題も、下山者と入れ違いの時間帯だったからポールポジションに停車。淀川登山口から小屋まではわずか30分だ。だから夕方インでも問題ない。
かつては、淀川小屋に大量の食材を持ち込んで、縦走前に大宴会を開いたこともある。


淀川小屋に着く頃には雲ひとつない快晴。すでに小屋には何人か先客がいたけれど、テント場には一番乗り。水はけもよく最高のテント場なのだ。
この日のテントは、僕はTHE FREE SPIRITS(TFS)の「Skyline」。テント前部に大きな前室があるので、雨が続く屋久島のような環境でも快適に過ごせる。
そして鈴木はプレテントのライトロック1P。ピンクカラーが森の中に映えまくり。インナーに通気性の高いモノフィラメント生地を採用しているので、結露しにくいという点も湿気の高い屋久島に向いている。

テントを張り終わったら、まったりタイム。今回僕が用意したのは、屋久島の焼酎である三岳。それを牛乳で割るのだ。不味そう? 騙されたと思って試して見て欲しい。その味を例えるなら甘くない大人味のカルーアミルク。グイグイ行けてしまうので注意が必要なのだけど、この日は天気の良さも相まってグイグイ。

僕が最初に屋久島に来たのは20年前。当然そのぶん、このあたりの木々も育っている。それに引き換えワタシと来たらどうでしょう……。
ほろ酔いでそんなことを思っていたら、冒頭でも触れた屋久島の師匠がまさかの登場! 撮影チームのガイドをしていたらしく、がっちりと握手を交わす。屋久島あるあるで、天候などを熟知した人はけっこう同じエリアに集まるのだ。
師匠に会えたということは、僕のプランも悪くなかったということかもしれない。このまま下山するという屋久島の師匠が去り際に言う。
「今年はシャクナゲ当たり年だよ! 明日は最高だろうね」
DAY4
早朝4:00。テントから出るとまだ真っ暗だ。今日は宮之浦岳までのピストン予定だけど、帰りの飛行機のことなど考えてかなり早めに行動開始。
幸い雨は降っていないけれどガスはまだまだ濃い。レインを着込み、ヘッドライトを点けて暗い登山道をゆっくりとしたペースで歩いて行く。

この旅で鈴木が着ていたのがメリノウールの「ROUVER / Merino Long KniTee」とTIL DSN×LOGの「GURKHA SHORTS」。
当初の予定はバス移動。バックパックひとつにすべてを詰めなければいけないから着替えは最小限。持ってきたTシャツはわずか2枚。それを着回していくことになるんだけど、メリノウール素材のお陰で嫌な臭いはまだ出ていない。
グルカショーツにいたっては初日からずっと履きっぱなしだけど、速乾性もあり肌アタリが良いので、つねにサラっとしていて快適なのだ。


美しい湿地である花之江河を過ぎたあたりで、空がうっすら明るくなってくる。そして師匠が言ったとおり、いたるところにヤクシマシャクナゲが咲き乱れている。
この縦走路は何度も歩いたけれど、こんなにカラフルなのは初めてだ。陽が昇り、気温が上がってくるとともに、じょじょに晴れ間が広がってくる。目線を遠くに送れば、見事な雲海も見える。

トレイルはまだかなり濡れていて、岩の上などはめちゃくちゃ滑りそうにみえるんだけど、屋久島は花崗岩の島。花崗岩というのは表面がヤスリのようにザラザラしているので、濡れていてもほぼ滑ることはない。これを知っているのと知らないのでは、歩きやすさは段違いになると思う。


稜線にでると個性的な巨岩たちが出迎えてくれる。めちゃくちゃ至近距離でも逃げない、大胆不敵なヤクザルに翻弄されつつ、最後の急登を登り切ると、気持ち良い風がビュウと抜ける。


九州最高峰、宮之浦岳の山頂だ。僕は過去に4回登っているのだけれど、4回目にしてベスト! 360度すべて見渡せる。昨日までの荒天が嘘のような晴天。雲ひとつない。
独占状態の山頂でまったりしていると、岩手から来たと言うソロの若者が上がってきた。景色に声をあげて喜んでいる姿を見て、なんだかこちらまで嬉しくなる。

時間があれば正面に見えている永田岳にも登りたかったけれど、名残惜しさを残しつつ下山開始。
もともと水場が多くて、大量の水を持ち運ばなくても良いのが屋久島登山の魅力なのだけど、それが昨日までの雨の影響でブースト。水はそこら中でジャバジャバ湧いている。屋久島の水は日本トップクラスの美しさだ。島の約90%を締める森が天然の浄水器。超軟水で、これがまためちゃくちゃ美味いのだ。

それにしても全部のタイミングがハマった旅だった。粘りに粘って逆転ホームラン。もし飛行機が予定通りに飛んでいたら、豪雨の中の修行系縦走になっていたかもしれない。天気予報でもこの2日だけ晴れ! 諦めなくてよかった……。
「屋久島は歩かないと駄目ですね。深いところに入らないとその魅力は見えてこない気がしました。けっこうしんどかったですけど。」
鈴木が言う通り。この屋久島にもクルマを使えば気軽に行ける名所はたくさんある。屋久島初日に行った大川の滝もそのひとつだ。でも、自分の足を使わなければ到達できない部分もある。それは具体的な場所としてもそうだし、心情的なものも含んでいる。達成感、と言い換えてもいいかもしれない。
今回の旅は、すべてが上手く行ったわけではない。でも、だからこそ見ることができた景色もたくさんあった。それを今回、鈴木はしっかり感じ取ってくれたようだ。

ありがとう屋久島、また来ます。
過去イチが詰まった、良い旅だった。
最後に。屋久島は雨が良いと冒頭で書いたたけれど、ちょっと訂正。
「屋久島は、雨上がりが最高に良い」
Text: 櫻井 卓